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Hako Design(ハコデザイン)
vol.3
お客様と自分たちの想いを
誠実にカタチにし、
目の前の“箱“に新しい息吹を。
古き良き昭和が薫る木造建築が残る新宿区若葉町。街の一角に構えるHaKo Designも、木のぬくもりと漆喰の清々しさが魅力的な、昭和20年代の建物です。この場所から、時代の空気を感じる個性的で機能的なデザイン空間を世に送り出している、建築家・神山和裕さんと堀川純一さんにお話を伺いました。
神山和裕
2001年、早稲田大学 大学院理工学研究科 建設工学修士課程修了後、
凸版印刷株式会社、CLaudio Colucci Design、VDAJを経て、
2006年、HaKo Designを共同設立
堀川純一
2001年、早稲田大学 大学院理工学研究科 建設工学修士課程修了後、
株式会社IDEE、Fumita Akihito Design Officeを経て、
2006年、HaKo Designを共同設立
World space creators award 2008
JT SMOKERS’ STYLE COMPETITION 2010
JCD Design Award 2013 Silver prize
聞き手/
株式会社フリーダムコーポレーション代表取締役
「東京リノベ」主幹 谷村泰光
──おふたりが建築家を目指したきっかけは?
神山 小さい頃は機械が大好きだったのですが、高校3年のときに関西国際空港ができたことが転機になりました。チタンを多く使った、今にも動き出しそうなロボットのような建物に惹かれ、建築に興味を持ったのです。
堀川 私の場合は、父親が大工だったので、物心がついたときから建築現場に行っていたんです。現場で掃除を手伝ったりしながら、父の仕事を見ていました。それで、自然にモノ作りの仕事に面白さを感じ、建築学科を選びました。
──大学院では同じ研究室だったそうですね。
神山 堀川も私も、通称「音ゼミ」と呼ばれる研究室で、空間の中で音がどのように人間に影響を与えていくかといった研究をしていました。
堀川 たとえば、人の流れの中で音を可視化する方法を考え、騒音を見える状態にすることで人は音をどう感じるのかを、3次元の中でシミュレーションする研究です。
──音と生活は切っても切れない関係にありますから、興味深いですね。
さて、大学院修了後、別々の会社に就職してから再会するまでを簡単にお聞かせください。
神山 社会の仕組みが知りたくて、最初に入ったのが凸版印刷の空間デザイン部門でした。その後、イタリア人の建築家のCLaudio Colucci Design、オランダ人の建築家のVDAJに在職。通して8年ほど外で働いたところで、次のステップに進みたいと思っていました。
堀川 ずっと建築学科で勉強していたのですが、内装や家具のデザインにも興味を持ち始めていたんです。そこで、インテリアを取り扱うIDEEに新卒で入って1年間働いた後、インテリア専門のFumita Akihito Design Officで6年間、修行を積みました。そろそろ次に何をするのか考えていたタイミングで、再会したわけです。
──運命の再会は、どのような感じだったのでしょうか。
堀川 それが、表参道あたりでばったり会ったんですよ(笑)。立ち話をするうちに、お互い今のところを辞めるとか独立するとかという話になって、「じゃあ、一緒にやってみよう」と。社会人になってから連絡も取り合っていなかったのに、縁とは不思議なものですよね。
神山 会社を立ち上げたとき、絶対もめるとか(笑)周囲からはネガティブな意見も聞かれました。そこで、お互いが思考のドッジボールをしながら仕事を進めていこうと決めたんです。
──ひとつの案件にふたりで携わっているのですか。
神山 はい。自由奔放なタイプの私と、慎重で緻密なタイプの堀川は、アクセルとブレーキみたいな関係です(笑)。お互いの個性をぶつけ合いながら、気づかなかったことに気づかされるなど、いろいろな発見があります。
堀川 たしかに、そうですね。モノの見方や性格が異なる二人の建築家が、ひとつの案件に関わるメリットは大きいと思います。
──建築設計のなかでも、リノベーションの魅力はどこにありますか。
神山 新築の場合、まったくスケルトンの状態からのスタートですから、実際の景色などがその場ではわかりにくいと言えるでしょう。その点リノベーションは、変化の楽しさと臨場感が同時に味わえる“いいとこ取り“ができます。東京はインフラ的にはすでに完成していますから、与えられた環境でさらに豊かな暮らしを実現するため、今後リノベーションの役割は大きくなるでしょうね。
──印象に残っているリノベーション事例を教えてください。
神山 横浜の妙蓮寺で、長屋を購入した友人宅のリノベーションです。私たちはまず設計の軸となるものを考えるのですが、この案件の場合は床柱でした。だいぶガタが来ていたので、お客様と一緒に木場まで新しい床柱を買いに行ったんです。お客様も私たちも気に入った松の木を1本どーんと通し、その足元にも小さな松を植えてみたら、ユニークで面白い空間になりました。
──仕事をするうえで心がけていることは?
堀川 お客様の要望に沿ったプランと、プロフェッショナルとしての立場で私たちが「こうしたらもっと良くなりますよ」と考えたプランと、2つの案を出すようにしています。そして、双方の意見を交換しながらお互いが納得するカタチで着地させるようにしています。
神山 そのための手段として、お客様が描いている完成イメージを具体的に引き出すようにしています。今お持ちになっている家具や備品をヒヤリングシートに書き出してもらい、「この空間にこの家具を全部置いたら息苦しく感じますよ」といったアドバイスをすることも。提案するときは「想像以上」、着地させるときは「想像通り」を目指しています。
堀川 私たちが提案したプランをきちんと着地させ、お客様の喜びがダイレクトに伝わるときこそ、この仕事の醍醐味です。喜びの積み重ねが自分自身の成長につなげていけたらうれしいですね。
神山 一つひとつの仕事を丁寧にこなすなかで面白い提案ができれば、これ以上の幸せはありません。自由な発想をみんなが納得したカタチで着実に着地させることが、私たちの誠実さだと思っています。
──HaKo designとは、シンプルで惹かれる名称ですね。
神山 由来のひとつは、内装のことを“箱“と表現するから。もうひとつは、HaKoのスペルに、堀川の「Ho」と神山の「Ka」が入っているからです。
堀川 だからHakoと、神山のkを小さく書かれると、彼は少しばかり気分が悪いようですよ(笑)。
──なるほど、HaKoの中にはおふたりのモノづくりへの思いがたっぷり詰まっていることが、今日お話を伺ってよくわかりました。
インタビューを終えて
神山さんの発言に深くうなずく堀川さん。アクセルとブレーキの役割をうまく果たしつつ、お互いを信頼している様子が伝わってきました。これまでの仕事から、床柱を探しに木場の材木屋まで出向くなど、おふたりの誠実な人柄を感じます。店舗デザインや家具製作も多く手掛けており、どれもユニークな作品ばかり。アイデアの面白さだけではなく、生活しやすい空間づくりを任せられるユニットだと思いました。現在、木造リノベーションとして、ご自分たちの事務所を工事中。昭和のレトロな空間が今度はどんな顔を見せてくれるのか、個人的にも興味しんしんです。(谷村泰光/2013年9月取材)
写真左より、堀川さん、神山さん、谷村
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昭和20年代の木の温もりを生かし、新しく生まれ変わった事務所が完成しました。
ここからまた、様々な個性的な作品達が生まれていくのでしょう。
(2013年12月) |